尚後哲を俟つ

読んだ本の書評やアマチュア野球の観戦記、日々の雑感をつぶやいていきます。

さあどうなる日本の賃金-渡辺努『世界インフレの謎』

はい、久しぶりの更新です。

読んだ本の感想を書きます。

 

読んだ本はこちら。

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著者の渡辺努は『物価とは何か』(講談社選書メチエ)が話題となった経済学者。

 

渡辺によると、現在の世界インフレは、ロシア-ウクライナの戦争を主原因とするものではなく、

コロナ禍における人々の行動変容により、「サービス」消費から「モノ」消費が増え、「モノ」の供給が追い付かないことによるのだという。

 

また、世界のインフレ率は確かに高いが、日本のインフレ率は現在喧伝されているほどは高くないのだという。この背景には、日本が海外からの輸入商品(原材料など)の価格上昇を、国内商品の価格に結び付けず、価格を据え置く日本の慣行がある。そして、商品価格が据え置かれるため、労働者の賃金も上昇しない。

このような慣行は諸外国には見られず、諸外国では原材料費などが値上がりするとそのまま商品価格も上昇する。それに伴って賃金も上昇する。こう書くと至って理にかなった反応のように見えるが、このような合理的な反応は日本では「あえて」行われてこなかった。国民のなかに、価格上昇に対する根強い忌避感情があるからだ。

本書のなかで例に出てきた、ガリガリ君の値段が上がったときに製造会社である赤城乳業がジョーク的に謝罪したことは、私もよく覚えている。

youtu.be

 

(しかし、言い訳的に値上げに向かっていくこの歌、なんとも日本的ですね…)

これは日本のなかではあくまでジョークとして受け取られたものの、アメリカでは、「輸入している原材料費の上昇による価格上昇を謝罪する」ことは奇異に受け取られ、新聞の記事にもなったようだ。

コロナ禍の2022年以降、諸外国のインフレを受け日本でも、ようやく物価が上昇している。ここで、物価の上昇に伴って労働者の賃金も上がっていくのか、それとも別の道をたどるのか。

どちらをたどるにせよ、渡辺曰く、

何十年に一度という大事な選択が、私たちに突き付けられていることは間違いありません。(p.204)

さて、私の賃金は上がっていくのかしら。自分事として捉えるしかないこの事象、もっと注視していきたい。

 

差し迫った国内の物価上昇の他に、個人的な関心を惹かれたのが、アベノミクスとこの問題の関係だ。本書では、日銀の「異次元緩和」など、アベノミクスの政策は賃金、商品価格共に据え置きの日本的慣行(渡辺は「ノルム」と呼称している)の変更を目的にしたのではないか、とされている。賛否が分かれるアベノミクスであるが、そちらの勉強もさらに深めていきたい。