尚後哲を俟つ

読んだ本の書評やアマチュア野球の観戦記、日々の雑感をつぶやいていきます。

なぜ社会人野球はマイナーなのか?

※本稿は、表題の件について考察していますが、筆者の経験不足・理解不足故にごく当たり前と思われることや的外れなことも記述していると思われます。それでも、個人的なメモ帳も兼ねて、書き記したいと思います。

 

 アマチュア野球ファン・社会人野球ファンの端くれとして、真剣に考えることがなかったような問いがある。あるいは、真正面から考えることを、意図的に避けてきたのかもしれない。

 

 その問いとは、「社会人野球はなぜマイナーなのか?」というものだ。

 

 先日、あるスポーツ好きの友人と、先月後半から今月初めにかけて都市対抗野球大会を観戦し続けた話をした。

 そのスポーツ好きの友人は、いろいろなスポーツをそれなりに知っており、無論野球についてもそれなりに詳しく、プロ野球高校野球について一般的な知識は持っている。

 ただ、「都市対抗」という大会の名前は、どうやら聞いたことがないらしかった。当然、「社会人野球日本選手権」も知らないようだった。

 こんな風に書いてはいるが、別段驚きはない。プロ野球等を中心に観ている方の、至極普通の反応だと思う。

 その後、その友人と、なぜ「社会人野球はマイナーなのか?」という議論をするに至った。以下に、挙げられた理由を書き連ねていきたいと思う。

 

①CS以外のテレビ放送が都市対抗・日本選手権決勝のBS-1での放送しかない

 まあこれは一番大きいだろう。プロ野球は、シーズン中では毎日BSでセリーグ2試合、パリーグも最低1試合はやっている印象だ。高校野球は言うまでもなく、春夏の甲子園を地上波のNHKで放送し続けている。BS朝日もやっているし、ラジオ放送まである。

 一方、社会人野球はテレビ放送が都市対抗・日本選手権決勝のBS-1での放送以外、地上波、BSでの露出はほぼないといっていいだろう(都市対抗の準決勝を中継していたこともあったようだが)。残りはCS、という話になる。日本選手権に至っては、CSですら全試合放送ではない。

 都市対抗にしたって、日本選手権にしたって、毎日新聞の中継サイトが存在するという声もあるだろう。確かにそうだ。ただ、ああいった配信サイトというものは、観る側が「能動的に」アクセスせねばならない。たまたまつけたらやっているわ、という状態には永遠にならないのだ。Youtubeやらその他の動画サイトが広まって、「能動的に」コンテンツを観る文化が広まっているとはいえ、一般に広めるにあたってはまだまだ「テレビ」の威力は巨大だ。

 かく申す筆者も、「社会人野球」というジャンルを初めて認識したのは、2005年の日本選手権決勝、NTT西日本VS松下電器がたまたまNHK教育テレビでやっていたのを観戦したときであった。とはいえ、現在のBSでの決勝だけを初めて見て、継続して観ようと思う人はどれだけいるのだろうか。「触れる機会」の多寡はやはり重要であろう。

②自分で情報を「能動的」に集めなくてはならない

 ①にも関連してくることだが、社会人野球はテレビだけを見ていても、ないしは新聞だけを読んでいても十分な情報が入ってこない(毎日新聞都市対抗・日本選手権の主催者でもあるから、例外的に詳細な情報を提供するが)。ネットでスポーツニュースをみていても、社会人野球の情報がニュースフィードに流れてくることはおそらく稀なのではないだろうか。となってくると、自分で情報誌である『グランドスラム』を買ったり、サンデー毎日増刊の『都市対抗ガイドブック』を買う、ないしは社会人野球に関連するキーワードを打ち込んでニュースを自分から検索するといったことも必要となる。各社会人野球チームはホームページだけでなく、TwitterInstagramFacebookのアカウントを開設し、情報発信に努めていることも多い。しかし、テレビとは違い、これらのSNSも基本的に「フォロー」などの行為が必要であり、情報受信者が「能動的」に情報を集めなければわからない。

 これはかなりのハードルではなかろうか。

 

③「観る」ための動機付けがどうしても低くなってしまう(?)

 社会人野球は、一般の人からすると「観る」ための動機付けが低くなってしまうように思われる。

 一番レベルの高いプレーを観たいならば、一般的には、MLBプロ野球を観ればよいということになる。(もちろん、社会人ならではの魅力的なプレーヤー、私はいると思うんですけどねえ…ただそれが知られるかというハードルも非常に高いし)

 プレーレベルを一旦脇に置いて、チームの物語や選手の物語を共有し、感動したいのならば、どうしても高校野球が一番わかりやすい。『熱闘甲子園』の放映もそうだし、一般紙を含めた新聞やネットニュースでもしょっちゅう取り上げられている。社会人野球にも、同じだけの物語はあるし(というよりもどのカテゴリの野球もそうだと思う)、その情報にアクセスしやすいか、し辛いかの違いだけなのだと思うのだが…

 今回話をした友人は、「高校生」というのはいわば特権階級的で、無条件で応援してもらえる素地があると話していた。是非はともかくとして、そういう雰囲気はあると思う。

 

④楽しみ方のハードルが高い?

 私自身、社会人野球の何を楽しんでいるのだろうと考えてみた。

 (1)選手のプレー

 将来プロ入りする選手だけでなく、トヨタ自動車の佐竹功年や鷺宮製作所の野口亮太など、(おそらく)これからのプロ入りはないであろう選手も、非常に秀逸なプレーを見せる。そういった技術と技術のぶつかり合いが面白い。

 昨日も録画していた都市対抗をみていて、日本製紙石巻の塚本峻大や齋藤侑馬の、球速はないものの美しいピッチングに魅了されていた。準決勝のHondaの佐藤竜彦の弾丸ホームランは、プロでもそんなに観られないと思う。

 (2)チームを巡る物語

 企業チームならば、そのチームはどのような企業で、どのような歴史を持っているのか。地方ならば、所在地の地域経済にどのような影響があるのか。地元ではどのような存在感を持っているのか。社風はどんな感じか。そんなことが凄く気になる。そして、今年はなかったものの、応援席で応援を観ると、その一端が垣間見えたり垣間見えなかったりする。

 去年の都市対抗JR四国高松市)の応援席に座ったが、横に高松出身という方が座られて、野球を観ながら山陰と四国の経済比較や地方トークが盛り上がったのを覚えている。そのチームが背負う「地域」を深く知ることができる機会があるのが面白い。「経済」ということが絡んでくる以上、高校野球よりも「地域」をより深く、切実に知られるんじゃないかと思ったり。

 ないしは、本年度限りで休廃部が決まっているチームの戦いぶりも注目したくなる。例えば、永和商事ウイング(四日市市)は、本業のコロナ禍による不振もあり、本年度限りで硬式野球部を休部すると決定したが、「最後」となった都市対抗の東海二次予選で鬼気迫る戦いぶりをみせた。

 クラブチームなら、クラブチームの設立背景、どんな環境で練習をしているのか、地域とどのような関わりを持っているのか…ということがより気になる。今年の都市対抗本大会に初参戦で初出場したクラブチームであるハナマウイ(富里市)も、調べていくうちに好きになったチームだ。

 (3)チームが勝ちあがるための戦略

 社会人野球の部員は、一番多いチームでも50名はいない。潤沢な戦力があるとは言えないチームならば、「戦略」が大事になってくる。

 特に社会人野球独特の「戦略」のカギになってくるのが、都市対抗野球大会における「補強選手」制度だろう。これは、都市対抗本大会に出場したチームが、予選で敗退したチームから3人まで選手を補強できる制度だ。

 この都市対抗における「補強選手」制度は他のカテゴリーの野球では類例のない制度だ。しかし、この補強選手を上手く活用できるかどうかが、勝ちあがれるかどうかのカギを握っていたりする。

 今大会、初の8強入りを果たした四国銀行高知市)は、同地区で予選敗退したJR四国高松市)から3人の選手を補強した。プロ注目の遊撃手・水野達稀は6番に入って打線に厚みをもたせ、2回戦の強豪・パナソニック門真市)戦では貴重なタイムリーを放った。2回戦ではエースの菊池大樹を5回からリリーフした山本凌が9回まで相手打線を1点に抑え、勝利に貢献した。部員わずかに21名の四国銀行の弱点である、クリーンアップの次を打つ打者と、救援投手の穴を埋めた、見事な「補強」だったといえる。こういった独特の制度を含めた「戦略」が面白いと思う。

(4)大学野球出身の選手の活躍

 私はもともと大学野球のファンである。大学野球ファンとしては、その選手の大学卒業後はどうしても気になるものだ。例を挙げれば暇がないが、自分が間近にプレーをみた、東北福祉大大学野球選手権優勝に貢献した三菱自動車岡崎の中野拓夢や、上武大のセガサミーの市根井隆成、ENEOSの小豆澤誠、JFE東日本の鳥巣誉議がプレーしている姿を観ると無条件に嬉しくなってくる。

(5)未知の球場、地域に行くのが楽しい

 都市対抗や日本選手権の予選は、各地方で行われるし、JABA大会は全国各地で行われている。首都圏で行われているものに限ってみても、様々な球場で行われている。新幹線やら電車、さらには深夜バスなどを乗り継いでそれらの地方球場を味わうこと自体、意義深いと思う。試合まで間があれば、その地域を少し観光することも可能である。周辺の史跡をめぐることもよくある。

(6)独特の応援

 ENEOS、Honda鈴鹿セガサミーJR東日本JFE東日本…などなどわざわざ例を挙げるまでもないほど、様々なチームが独特の応援を繰り広げている。これは、プロ野球とも高校野球とも違うものだ。それらの応援を見聞きするのは、非常に楽しい。

 

 これらの話を、その友人にもぶつけてみた。反応としては、(1)はわかるのだが、(2)、(3)、(4)、(5)は少し視点としては敷居、ハードルが高すぎるとのこと。(6)は現地に行ってみないとわからないということだった。(4)は大学野球ではなくて高校野球出身の選手ならまだわかるという話なのかもしれないが…結局同じと言う気もする。

 正直、至極真っ当な反応だと思う。

 

⑤地域によって温度差がある?

 私の出身地の鳥取には、JABAに登録している社会人野球チームが存在しない。お隣の島根にも、クラブチームが1チームあるだけだ。これでは、社会人野球について想像すらできない。都市対抗に「鳥取市代表」や「米子市代表」が出る可能性は現状、ゼロなのだ。これでは、「社会人野球」自体知ることができない。

 もちろん、その地域に社会人野球チームがあるからといって、それが存在感を放つかはまた別の話だろう。ただ、前の職場にいた浜松出身の方は、特に社会人野球に詳しいわけではなかったがヤマハの野球部の存在は知っていたし、茨城県日立製作所-日本製鉄鹿島の試合があそこまでの集客力を見せることを鑑みると、チームがあるか、ないかによる温度差はやはり無視できないと思う。

 

他にも、様々整理しきれていない理由が挙がったが、パッと思いついたのはこのあたりの理由だった。

大学野球が全体的にはマイナーと思われる理由とも、連動してくる面はあると思う。

また、本稿はあくまで、「社会人野球がなぜマイナーなのか」について私見をもとに考察することを目的にしたものであり、それ以上でも以下でもない。

「マイナー」だというのも多分に臆断が入った表現だし、何かの数字に基づいて書いているわけでもない。現状を変えたいとして、変えるためにどうしたらよいか、ということはもちろん想像もつかないし、変えるのがよいのかすらわからない。